私は天使なんかじゃない







状況証拠





  明確な証拠はなかった。
  だが状況は、疑わしいと示している。

  雑な計画なのか、それとも罠なのか。





  メガトンの街を歩く。
  アッシュの先導でな。
  呼び出しが来たのは俺だけだからトロイは置いてきた。
  まあ、あいつまだ仕事だし。
  俺も仕事中といえば仕事中だがオーナーには断れ入れてるしベンジーも戻ってきたから酒場の治安は問題ないだろ。
  客少なかったし。
  「アッシュ、Dr.リーは何だって?」
  「俺は知らんよ。呼び出しに来ただけだ。……やれやれ、宿でも取っておくべきだった。ルーカス・シムズの家に泊まってなければこんな雑用……」
  「聞こえてるんだが」
  「気にするな。お前さんに対しての愚痴じゃない。レギュレーター以外の仕事に対しての、愚痴だ」
  「じゃあ聞かなきゃいいじゃねぇか」
  「そうもいかん。大人の対応ってやつだ」
  「大人とやらは面倒臭いんだな」
  「同感だ」
  アッシュの愚痴を聞きながら歩く。
  何だかよく分からないが行先はルーカス・シムズの家、つまりはこの街の市長兼保安官の家。街の治安を司る者としての責任感からなのか、この街に入り込んでくる悪党を全て防いで
  やろうという気概なのか、市長の家はメガトンの唯一の出入り口である扉に最も近くにある。
  俺と市長との関係は、まあ、良好だ。
  悪くはないだろ。
  ……。
  ……たぶんな。
  今回の訪問はリベットシティから来ているDr.リーの話を聞くためだ。
  何故に?
  知らんな。
  何でも謝罪したいとか何とか。
  まあ、意味は分かる。
  リベットシティの治安部隊にこの間狙われたからな。というかジェリコみたいなクソ野郎に指揮任せるなんてどういう体制なんだ?
  訳分かんないぜ。
  あいつは五体バラバラに消し飛んで死んだわけだが。
  厄介払いたぜ。
  永遠にな。
  「ん?」
  立ち止まる。
  「どうした、ブッチ」
  「何だあいつら?」
  「あいつら?」
  アッシュも立ち止り、俺の見ている方向を見た、
  住民も多少ざわついているように見える。
  少なくとも、異質な3人組に対して奇異の目で見ていた。
  その3人組はフルフェイスのマスクを被り、見たことのないタイプのコンバットアーマーを纏っていた。どこも肌を露出していない、見たことないタイプだ。
  そして武器。
  俺が今まで見てきたことのない銃火器を帯びている。
  合点が言ったのかアッシュは呟いた。
  「ああ。メトロの奴らだ」
  「メトロ?」
  何だそりゃ。
  あー、いや、確かモニカさんに聞いたな。
  メトロの奥で暮らしてる、幽霊みたいな奴らだとか。
  「モニカさんに聞いたな、そういえば」
  「そりゃ何よりだ。あいつらは全面核戦争直後にメトロに潜った奴らだ。いや直前か? まあ、よくは分からん。200年前以上の話だからな。メトロの地下奥深くに潜んで今の今まで生きて
  来た連中さ。ワシントンDC中のメトロを網羅している連中だ。メトロは全部どこかで繋がっているから、地下を自由に動きもわるキャピタルの地下の支配者だ」
  「へぇー」
  3人組は屋内に消えた。
  あそこはクレーターサイド雑貨店だ。
  アッシュは続ける。
  「あいつら最近地下から這い上がって来てな、そこら中にロシア製の武器を売りまくってる」
  「ろしあ?」
  「昔の国の名前だ。たぶんな。俺はそう聞いてる。質が良いロシア製の武器を売り歩いているのさ、連中。何故かは知らんがな。ただ、気になる奴は昔いたよ」
  「……?」
  「ドゥコフという武器組織の親玉だ。悪党だ。そいつがロシア製の武器をレイダー連合やタロン社、奴隷商人に売っていた。レギュレーターとしてもその行為は見過ごせなかった。悪党同士で
  殺し合うにしても、そういう組織は目障りだからな。ただ出所が分からなかったから泳がしていたんだ。エンクレイブに吹き飛ばされたけどな、屋敷ごと」
  「じゃあ何だ、あいつらが武器の出所ってわけか?」
  「かもしれん」
  「にしても武器組織なんてよく無事だったな」
  「どういうことだ?」
  「だってよ、他の悪党どもからしたら宝箱みたいな組織じゃねぇか、武器組織なんて」
  「良い着眼点だ。だがそうならなかったのは、ドゥコフの武器の出所が誰にも分からなかったからさ。分からなければ奪いようがない。結局それを逆手にとってドゥコフは売買ルールを
  作成した。従がわなきゃ手に入らない、悪党どもは従うしかなかった。ジャンクヤードが中立地点で誰も立ち入ることをしなかったのもそのためだ」
  「ジャンクヤード?」
  「そこでのみ取引可能だった。抗争は当然NG。今じゃドゥコフも悪党も一網打尽だがジャンクヤードは未だ誰も立ち入らない。まあ、今じゃゴミしかないしな」
  「ふぅん」
  なかなか楽しい話だ。
  中立地帯か。
  いいねいいね。
  そこでトンネルスネークを本格的に立ち上げるっていうのもいいねぇ。
  拠点そこにするってのもありだな。
  トンネルスネーク最強っ!
  ……。
  ……まあ、場所を聞いたり下見は必要だから、まだ皮算用だけどな。
  だが、楽しみだぜ。
  ルーカス・シムズの家に到着。
  扉の所に男が1人いる。
  腰にレーザーピストル、傭兵の服。
  誰だありゃ?
  「着いたぜ。俺は外にいる。一緒に話を聞いて面倒にはなりたくない」
  「ははは」
  思わず笑う。
  扉の男はこちらを見ると口を開いた。
  「Dr.マジソン・リーがお待ちです」
  「……?」
  「何か?」
  「どっかで会ったことあるかい?」
  「少なくとも今のデータ上はありません」
  「データ?」
  何だこいつ。
  しかし、何だな、会ったことあるような。聞いたことのある声だ。誰だったかな。
  「ブッチ、そいつに聞いてもろくな答えはまず返ってこないよ。人間じゃないからな。融通は利かないし堅物だしな」
  「誰なんだ、こいつ」
  男は平然としている。
  わりと酷いことを言っているがするが顔色一つ変えない。
  アッシュは言った。
  「連邦って知ってるか?」
  「知らん」
  「そいつはそこで作られたアンドロイドだよ。アーミテージ型とかいう種類だ。Dr.リーの護衛だ」
  「アンドロイドっ!」
  凄いもんがいるもんだな。
  アッシュはそこに留まり、俺は扉を開けて中に入った。
  「いらっしゃいブッチ」
  「ようハーデン」
  ルーカス・シムズの子供が出迎えてくれる。
  マギーの一番の友達らしい。
  「パパは2階にいるよ」
  「ありがとうな」
  お礼を言って家の中を歩き、2階に上がる。
  そこにはテーブルを挟んでルーカス・シムズとDr.リーが何かを話していたが、俺の姿を見るとDr.リーが立ち上がってこちらに頭を下げた。
  周りには誰もいない。
  ここにはどうやって来たんだ?
  まさか護衛はあのロボットだけか?
  「久し振りね、ブッチ君」
  「ああ」
  ルーカス・シムズが椅子を指差すので俺もそこに座る。Dr.リーも座り直した。
  挨拶もそこそこに俺は切り出す。。
  「一応仕事中なんだ、簡潔でいいから教えてくれよ」
  「簡潔と言っても込み合った話なのよ。ただ、本当に簡潔に言うと、情報が錯綜してる。故意に誰かが煽ってる」
  「……簡潔過ぎて分からん」
  「ごめんなさい。まずは事実だけを話すわ、簡単に」
  「ああ」
  「ガルザは死んだわ。殺されたのよ、誰かが薬を毒に変えてね。ガルザは私の研究品を誰かが横流ししているのを探ってたみたい」
  「つまり、その横領犯に殺されたのか?」
  「そう見てるわ」
  「それが、俺?」
  「情報を持ってきたのはダンヴァー司令よ。焚き付けたのはジェリコという傭兵。正確には元傭兵。今ではリベットのセキュリティ部隊に所属してる」
  「あのレイダー上りがか?」
  市長は怪訝そうに呟いた。
  博士は続ける。
  「ジェリコの真意は不明よ。ただ、これは弁解なんだけど、私はあなたが標的だとは知らなかったのよ。その、容疑者だとは。犯人が判明したから追撃したいという要請を聞いて許可を出しただけなの」
  「いいさ。セキュリティを返り討ちにして俺は生きてる。あいつと違ってな」
  「あいつ?」
  「ジェリコさ」
  「言っている意味が分からないわ。失敗したとは聞いたけど、ジェリコはリベットシティにいるわ。少なくとも私が旅立つまではいた。今は知らない。それが何か?」
  「はあ?」
  どういうことだ?
  死んだはずだっ!
  「い、いつの話だ? その、あいつと最後にいつ会ったんだ?」
  「2日前にはまだ生きていたわ。それが?」
  「……」
  どういうことだ?
  「ブッチ君の言っている意味が分かりかねるけど、ジェリコは多分、評議員に雇われているのね、ダンヴァー司令は振り回されてるから、彼女以外の誰かに」
  「……」
  「話を続けても?」
  「あ、ああ」
  「ジェリコの何が気になるのかは知らないけど、彼は評議会の誰かに雇われてる。実は評議会は評議長選の真っ最中でね。これは市長にも言わなきゃの話だけど……」
  そう言って市長の目をまっすぐと見た。
  「水の横流しをしているのが誰か分かったわ」
  「本当か?」
  「ええ。パノンよ。評議長の椅子に最も近い人物。賄賂をばら撒きまくってる」
  「その出所が、水の横流しだと?」
  「ええ。彼がどの程度の横流しを差配しているのかは分からないけどダンヴァー司令がそれを告発したわ。少なくともメガトン向けの水を、聖なる……」
  「聖なる光修道院?」
  「それ。そこに横流ししてるみたい。輸送隊は命じられて運んでるだけ。パノンがそこの修道院とグルで水を横流ししてる。裏付けはしている最中だけどほぼ間違いない」
  しばらく沈黙。
  完全に水が利権になっている。
  くそ。
  優等生が聞いたらさすがに泣くぜ。
  「あのサイボークは何なんだ?」
  場の空気を変えるべく俺はそう聞いた。
  Dr.リーは笑う。
  「サイボーグではないわ、アンドロイドよ」
  「どう違うんだ?」
  「サイボーグは生身を改造するの、アンドロイドは完全な機械」
  「ふぅん」
  「昔連邦が乗り込んできたことがあるのよ。その時の残骸。護衛部隊率いてくると逆に目立つし、お忍びならアンドロイドの方が安心なのよ。最近流行ってるわ、評議会でね」
  「その、連邦の残骸を直してるのか? すげぇな」
  「私じゃないわ。Dr.ピンカートンよ。彼に修理を依頼したの。……癪だったけど」
  「何で?」
  「ともかく、私は微調整は出来るけどそれ以上は無理。私の専門はシステム設計なのよ。浄化システムの基本を作ったのも私なの」
  「ふぅん」
  凄すぎてよく分からないぜ。
  「ともかく、俺の疑いは晴れたんだな?」
  「そうよ。本当にごめんなさい」
  「いいさ。研究品の横領犯も、そのパノンって奴か?」
  「分からないわ。基本的にもう使わないものが大半だったからいいんだけど、放射能発生装置は悪用されたら問題ありね。どの程度なら浄化できるか調べる為に作った装置なんだけど」
  「そいつは問題たぜ。なあ、市長」
  「そうだな」
  「結局ジェリコは誰の手駒なんだ?」
  「私には分からないけど、パノンを追い落とそうとしているのであるならば、評議員のシーグレイブかしら」
  誰だか知らん。
  にしても面倒なことになってるよな、本当に。
  優等生がトラブルメーカーで、色々と厄介が起きてるいるのかと思えば不在でも厄介が起きてるからどうやら違うらしい。
  やれやれだぜ。
  「Dr.リー、FEVについては何か分かっただろうか?」
  「市長。実は私が忍んでここに来たのはそれを伝える為でもありました。私は思い違いをしていた。リベットにあるFEVの管理は私がしています。管理している隔離部屋の最終入室者は
  記録上私です。Dr.ピンカートンと一緒にFEVの確認もした。確かに規定量あった。しかし私より前の人物が持ち出していたら? 培養していたら?」
  「そんな人物が? それは一体?」
  「それはDr……」






  「Dr.レスコ? 誰です、それは?」
  「当時ワシと共に評議員していた奴じゃよ。遺伝子学の権威でな、イカレタ理論でイカレタ研究をしていた奴じゃ。詳しい顛末は知らんが、ワシがDr.リーに追い払われた少し後に奴も追われたようだ」
  ボルト112.。内部。
  スターパラディン・クロスは、ボルト112の探索責任者となったDr.ピンカートンと話をしていた。
  BOSの兵士たちはスクライブの指示のもとシュミレーターを何基か運び出している。
  軍用に転用すれば訓練の幅が広がる、その為の派遣だった。
  ボルト112自体に対してはBOS的には興味がない。
  とはいえ完全に放置しておくと技術が無駄になる為、今回の探索の後も正体が駐屯することになる。
  Dr.ピンカートンとクロスは作業を横目で見ながら話す。
  「その名がボルト112の入室リストの中にあった。しばらく前だが……あやつめ、エデンの園創造キットを端末で検索しておった」
  ボルトテックが開発した惑星改造モジュール、エデンの園創造キット。
  応用次第では何でもできる。
  文字通りなんでも。
  ジェームスはそれを応用することで水を浄化しようとしていた。そしてエンクレイプの手を経てではあるものの、成功、水は浄化された。
  「ここに来る前にDr.リーからも連絡があったよ。Dr.リーの前にFEVの管理室に入っている。奴ならば培養できるだろう。培養して盗んだ分を返して持ち出しを隠蔽したのだろう。ここの端末で
  奴の名を見るまでは何やってんだあいつという感じでしかなかったが、あやつめ、何か面倒なことをしでかしている可能性が高い」
  「それがこの一連の厄介なことの答えだと?」
  「分からん」
  「……」
  「分からんが、面倒じゃな。……3基あればいいか、撤収するぞ」
  「了解。第三小隊のみここに駐留。撤退するわよ」






  メガトン。
  ルーカス・シムズの家。
  Dr.リーは帰り、ブッチも仕事に戻った。
  現在この家にいるのはルーカス・シムズ、アッシュ、そして急遽リベットシティから派遣されたモニカの3人。ルーカス・シムズの息子のハーデンは外に遊びに出ている。
  テーブルを囲む形で3人は座っていた。
  「どうしてここに君がいる」
  「ルーカス・シムズ、実はラドックが行方知れずとなりました」
  「ラドックが?」
  「ソノラの命令で彼はリベットに来たんです。任務は水の運搬先の調査。メガトン行きの水の調査の為に輸送隊を付けていたんですが……」
  「戻ってこないのか」
  「はい。彼ほどの人物が戻ってこないのであれば、おそらくは……」
  「……」
  そこで言葉が途切れる。
  アッシュは低く悪態をついた。死んだ、と見るべき案件だった。
  「その調査でここに来たわけか」
  「はい、ルーカス・シムズ」
  「リベットシティの現状を先ほどDr.リーに聞いたのだが……」
  先ほどの情報をモニカに伝える。
  全てを。
  聞いた後、モニカは少し考えてから言う。
  「つまり、聖なる光修道院が殺した可能性が高いということですか?」
  「そうなるな。リベット側の横流し犯はともかくとして、Dr.リー曰く輸送隊は横流しの片棒担ぎとは知らないらしい。露見したからと言ってラドックを殺すだろうか」
  「そいつは甘いんじゃないですかね。あの博士を完全に信じるのは危うくはないですか? 少なくとも、横流しを注進した奴はいるんだ、そいつがラドックを殺したのかもしれない」
  「……ジェリコか?」
  「奴が密告したかは知りませんけどね、状況的には奴が常に煽っている感がある。違いますか?」

  コンコン。

  「ちょっと待っててくれ」
  ルーカス・シムズはそう言って立ち上がり、階下に。
  扉の前に立つ。
  「誰だね?」
  「アンディ・スタールです」
  「アンディか」

  ガチャ。

  扉を開けるとプラスランタンという店を経営しているアンディとレオが立っていた。ジェニーもいる。スタール3兄弟。
  「こいつはお揃いでどうした? ……ああ、爆発の日はすまなかったな。忙しかった。それで、あの時何を言いかけたんだ? 忘れていた、すまんすまん」
  「実は兄貴が薬をまだやめてなかったんですよ」
  末の妹のジェニーが言った。
  レオ、長男のレオは体を小さくしてバツが悪そうな顔をする。
  かつて薬物中毒だった。
  それを兄弟に諭され、クロムウェル贖罪神父に諭され、やめた。その経緯はルーカス・シムズも知っていた。とはいえ戦前とは違い薬物禁止の法律があるわけでもない。
  市長としても当時裁きに困っていた。
  「それをこの間告白しに来たのか」
  「は、はい」
  「しかし追い返して、忘れていた俺も悪いが……何だってこんなに日が空いた? 決心が鈍ったからか?」
  「そ、それは……」
  「おい兄貴、しっかりしてくれよ。もういい。俺が話す」
  アンディが話を引き継ぐ。
  ますます長男は体を小さくした。しかしそれだけではなく幾分か震えている。
  「兄貴は浄水施設で薬物をやってたんです。深夜に」
  「何だってあそこで?」
  「前の管理人が転落死したでしょう? すぐに後任が出来ましたけど、前の管理人と違って浄水施設には住まなかった。だからあそこは夜は基本無人なんですよ。それをこのアホ兄貴が
  忍びこんで薬物やってたんです。まったく、やめたとか言っておきながら情けないっ!」
  「まあいい。やめたくてわざわざ俺に言いに来たのだろう? なら……」
  「いえ、市長、そうじゃなくて……」
  「いいよアンディ、俺が言う。俺あの夜も浄水施設にいたんです」
  「……爆破の夜か?」
  「は、はい。そこで見たんです、グールがいました。ノーヴィスって奴覚えてますか?」
  「ノーヴィス?」
  しばらく考える。
  「アトム教の、グールか?」
  聖なる光修道院の前進の宗教。
  「そいつが爆弾を仕掛けてたんですっ! 俺、あの時言いに行ったんです、で、でも、言わなくてよかったなとか思ったり、頭がおかしくなりそうだったっ! それでアンディとジェニーに言って……」
  「追い払って話を聞かなかったのは悪かった。しかしなぜ今になって言いに来た? もっと早くに言えただろう?」
  「俺恩義があったからっ! また中毒になったけど、親切に説いてくれたから、恩義があったからっ!」
  「落ち着け。落ち着け、レオ・スタール」
  「ノーヴィスが言ったんです、爆発を見ながら。神父の爆弾の管理はなってない、火薬が湿っているじゃないかって」
  「アッシュ、モニカ、すぐに来いっ! 行くぞっ!」





  「あー、このまま今日はサボるってのもありだな」
  俺様はそんなことを考えながらメガトンの街を歩いていた。
  ……。
  ……ああ、駄目か。
  スプリング・ジャックたちが待ってたな。
  早く戻らないとあいつらに給金以上の飲み食いされちまう可能性がある。奢るなんて言わなきゃよかったぜ。
  「ん?」
  遠目に誰かの家の扉を執拗にノックしている奴が目に入る。
  ネイサン?
  ああ。
  じゃああそこが神父の家か。
  夜に訪ねるとか言いながらまだ昼過ぎだぜ。予定が変更になったのかな?

  「た、助けてくれっ!」

  「うおっ!」
  いきなり背後から抱きつかれて思わず身震い。振りほどく。
  小汚いおっさんがいた。
  手にはラベルの無いペットボトル。
  水かな?
  液体が見える。
  「お前さっきのボルトの奴かよ」
  見覚えがある。
  ボルト至上主義者だ。
  酒場で暴れた3人組の1人。他の奴はどこだ?
  「何だよ。金なら貸さねぇぞ」
  「さ、さっき、廃墟の街まで行ったんだ。行くとこなかったし、3人で彷徨ってたんだ。そ、そしたら、でっかい建物があって」
  「でっかい建物?」
  「そこの倉庫に水が沢山あったんだ、こいつだよっ!」
  叩きのめしたのはさっきだからな。
  となると廃墟の街ってスプリングベールで、おっきな建物は聖なる光修道院の建物かな。見たことないけど。小学校の方かもしれないが、あそこは誰も今は住んでないらしいから水はない。
  聖なる光修道院からパクったと見るべきか。
  「そいつを買えってか?」
  「馬鹿飲むなよこいつは悪魔の水だっ!」
  「はあ?」
  「こいつを飲んだら酒場の奴みたいになったんだ、仲間の2人がっ!」
  「……貸してみろ」
  強引に奪い取る。
  PIPBOYがガーガーなる。しかし、それほど強くはない。この程度の放射能でグール化するなら全員グールだろうよ。
  あれ?
  前にアッシュがラベルの無い水飲んだ旅人がグールになりかけてたとか言ってたな。
  聖なる光修道院が何かやばいことしてる?
  水の横流し先だし。
  放射能発生装置で横流しされた綺麗な水に放射能を?
  ついでにグールになり易いように何かでエッセンスを加えて?
  ……。
  ……証拠は何もない、何もないが、状況証拠がやべぇだろ、これ。
  ふとネイサンの方を見た。
  特に意味はない。
  ノックに意味がないと悟ったのかドアノブを手に取り、回した瞬間、街は爆発音に包まれた。